私小説〜桜を見上げるタンポポ
- 1 :賢治:04/05/11 16:00 ID:jr6EUfZN
- その年の桜もまた綺麗だった・・。
いや・・ただ格別に忘れられぬ桜となったからそう想うのかも 知れない。 すべてはあの日から始まったのだから・・・ 「私、出て行こうと思うんだけどいいかな・・」 後部座席ではしゃぐ子供達の声をかきわけるように耳にとびこんで来た・・ 「出て行くって・・子供達はどうするんだよ」 動揺をはっきり認識する前に即座に投げ返した。 「子供はみんな置いて行こうと思うの」 窓の外を走る桜並木をじっと見つめながら妻が言った・・ 「そうか・・・そうだろうな」 努めて感情を押し殺しながらそう答えるのが 精一杯だった・・。 今の自分はどんな顔をしているのだろう・・ 心の動揺を抑え、自分の自尊心を守るべく 冷静に会話を続けよう・・そう考えながらハンドルを 握る手に力がギュッと力が入った。 ・・・・・三十代半ばで向かえる人生の転機であった。
- 3 :賢治:04/05/11 16:22 ID:jr6EUfZN
- 一歳になったばかりの末娘を抱き上げながら
「お母ちゃんな、この家を出て行くらしいぞ」 そう子供達に事実のままに伝えた。 そうしようという事だけは決めていた事だが 一人々々の顔を見る事は出来ず・・ わけもわからずはしゃぐ末娘をあやすフリをした・・。 「えっじゃあもう・・お母ちゃんと会えなくなるの!?」 と次男坊が反応した。 一瞬七人の子供の眼が・・末娘を高く抱き上げる私の横顔に つきささった。 「そんなわけはないよ。会いたい時には会いに行けばいいし・・ お母ちゃんがいいっていうなら泊まりに行けばいいさ」 極々日常の会話の様に普通にこたえた。
- 7 :賢治:04/05/12 08:07 ID:f1fAkyVD
- 浜松に越した時だった・・
「いいか、今までみたいに仕事場に近くないからな。 これからはお前が子供達の朝飯をつくるんだぞ、いいな。」 それまでは朝食の用意から始まった私の毎日であったが・・ 生活環境が変わるのを機に少し、楽な人生を目論んだ。 しかし「やはり」と言うべきか、それはあまりに淡い期待であった。 小学校二年になった長女と年子の長男を起こした。 「早く起きないと学校に送れるぞ。 父ちゃんはもう仕事に行くからな・・。」 そう言うと長女は弟の方を向いたまま涙ぐみながら 「お父ちゃん、やっぱり朝ごはん食べてから学校行きたい!」
- 8 :賢治:04/05/12 08:30 ID:f1fAkyVD
- 「だっていつも朝ご飯、ないよ・・・
新治(しんじ)一年生なのにかわいそうだよ・・」 隣で寝ほころける通代の胸ぐらを掴んで持ち上げた。 「なんだお前は!朝、子供にご飯やってないのか!」 するとその剣幕の私に眼も向けず、 「あんたら!父ちゃんに何言ったん!」 と、子供達を睨みつけた。 ああ・・駄目なんだ、通代に何を期待しても駄目なんだ。 引っ越し先で入学したばかりで、環境がガラリと変わった上に 朝御飯もなく通学途中でグズる弟を想い・・母親から固く口止めを されたにも関わらず直訴した長女を抱きしめて 「よし、じゃあ父ちゃんがつくるからな。 学校に行く準備しな。」 しかし・・・ 「ちゃんと毎朝、飴あげてたじゃん!」 と投げ捨てる様に言った通代は悪びれた様子もなくまた眠りについた。 平成11年の四月の朝であった。
- 9 :賢治:04/05/12 11:31 ID:K+xCHLhG
- 平成13年五月・・・
東北育ちの私には、この時期の静岡の日差しは 既に常識から外れていた。 ヒリヒリする頬をつたう汗を拭いながら私達は座っていた。 仕事の絡みでまたも越して来たこの街の・・ 中央公園の小高い所に見事な藤の弦があり、 その下の東屋に並んで腰掛けジッと前を見つめていた。 隣に座っているのは家を出た通代の父親である。 一部上場企業の役員であったこの人はやはり人格者であり、 本来であれば、娘と添い遂げる道を選択しようともしなかった私を 責める事をしなかった。
- 10 :賢治:04/05/12 12:56 ID:Tr97XjAR
- 「子供はみんなうちで預かろうと思てますねん」
切り出されたがその話には最初から自分の中で結論を出していた。 「うちの女房は・・みんななんて預かれへんで半分にしぃよ・・ 言うんやけどな・・そうもいかん思てなぁ」 更に言い続けるが、もはや聞く気にもならなかった。 この人はいい人だ。 しかし元妻の実家に預けた場合、最も子供達に影響のあるであろう 元妻の母親をどうしても、尊敬する気持ちになれなかった。 「子供を半分って・・」 その言い方さえ不愉快で、ただ黙って父親の言葉が終わるのを待った。
- 14 :賢治:04/05/13 07:45 ID:h/4JDMRk
- 「子供を手放す考えはないですね・・」
あたかも熟慮した言葉を口にするかのように・・ 穏やかな口調ではっきりと伝えた。 だがその態度と裏腹に、胸中は漠然としていた。 子供と引き離される可能性に、引きちぎられそうな想いを 感じたわけではない。 あえて言うなら、あの場面ではそう答えるべきだと考えたのだ。 それは保身の為であったのかもしれない。 しかしその状況においても「親」として本能に目覚めきれない 自分には、正直に幻滅していた。
- 15 :賢治:04/05/13 08:14 ID:h/4JDMRk
- 朝、目覚めるとまず洗濯機をまわしながら朝食の準備をする。
小学生組をまさに「叩き」起こして登校の用意をさせながら 洗濯物を干す。 小学生組が出払う直前に保育園組に朝食をとらせつつ、登園の 準備をするのだが・・。 お着替えをひと組下着をひと組、スプ−ンにフォ−ク、お箸 とお椀にコップ、ハンカチとティッシュ・・・ ノ−トには昨晩の就寝時間、今朝の起床時間、朝食の内容、 排便の有無を記入するのだ。 細かい愚痴を言えば、着替えと下着を各々上下たたむだけで 四人分で毎朝16枚なのだ。 一歳の末娘を背負い、三女の手を引きながら次女と四男坊を 走らせて保育園へ届けるやいなや仕事場へ向かう。 とにもかくにも我が子八人との「父子家庭」生活が始まった。
- 16 :賢治:04/05/13 13:44 ID:gKazDDC2
- 「離婚届取りに行く時間ある?ちょっと忙しくなってん」
と電話が来たのはまだ生活に不慣れだった六月の半ば・・ 「いいよ、じゃあ俺が取りに行って先に記入しとくよ」 「そう、ゴメンね頼むわぁ」 世代が違うのか個人の認識なのか「戸籍を汚す」事に さほどの抵抗もなかった。 戸籍窓口に行くと丁度幸せそうなカップルが婚姻届をとりに 来ていた。 「すいません、婚姻届を頂きたいんですけども」 その一声を発する役目を担ったのは女性の方だった。 「おめでとうございます、少々お待ち下さい」 と、女性職員が応対した。 「なるほど婚姻届を希望する市民には あの様な対応マニュアルがあるんだな・・」 そう思うと俄然自分への対応に期待が高まった。 「離婚届を希望した場合にどんな対応が・・・」 まさか「それは残念でしたね、少々・・」はあるまい。
- 17 :賢治:04/05/13 14:03 ID:gKazDDC2
- 「すいません、離婚届を下さい」
そう、先ほど幸せそうなカップルにこやかに応対した 職員に申し出た。 「はい、少々お待ち下さい」 真顔ですっと立ち上がり書類を差し出すと 「記入方法はこちらに書いてありますので」 とサンプルのコピ−を一枚を重ねた。 その素っ気無さに悪戯心がおこり(悪い癖なのだが) 「あの、申し訳ありませんがもう一枚頂けませんか」 と言うと 「はぁ・・」 と言うので 「実はまだ、修羅場が済んでないもんですから もしかしたら破られるかもしれませんので」 「そうですか、じゃあもう一枚お持ちください」 どこまでも真顔で応対する女性職員であった。
- 18 :賢治:04/05/13 14:55 ID:gKazDDC2
- 離婚届作成に伴い謄本をとり寄せてみると、奇しくも
入籍の事実も六月中旬と記載されていた。 披露宴は三月に執り行い、と同時に結婚生活を始めた。 無論記念日も同様であったがその際に妻の母親から 「入籍の判断は私にまかせやね、結婚はしたわすぐに 別れたわじゃあ、戸籍が汚れるだけやからね」 そう言われた事を思いだした。 思えば最初から「添い遂げる」可能性に擬ありとする この人の下、始まった結婚生活であった。
- 19 :賢治:04/05/13 15:11 ID:gKazDDC2
- 「あんたはこんなもんばっかり食べて育ったやろぉ」
台所に立っていると突如訪問した妻の母親は 「お母さんも食べますか」 そう言って差し出したお椀の中を覗いてそう言った。 ひっつみ(すいとん)は子供の頃私の好物であったと同時に、 それを食する事は今や故郷を思う一つの術でもあった。 「おばあちゃんも食べなよ、おいしいよ」 そういう孫の声に 「いらへんいらへん・・おばあちゃんな、そんなん よう食べへんねん」 そう顔をしかめて言った。 「あんたは育ちが悪いから」 「家の格が違う」 「あんたは品がないから」 どれだけこの人に言われた事だろう。
- 20 :賢治:04/05/13 17:18 ID:gKazDDC2
- 通代の母親の話は枚挙にいとまがない。
そういう意味では、通代との結婚生活においても同様である。 また、そのひとつひとつを列挙する事はその労もさる事ながら その労を上まわる不愉快な想いがある為省略をする。 離婚も成立し制度上は全くの他人であるが、元より彼女の 一人相撲で展開した成り行きであるのだ。 通代が家を出て三ヶ月余りが過ぎた頃・・・ 修羅場を演じて離婚した理由でもなく憎くもない元妻の、 通代の住まいを訪ねてみる事にした。 そこには・・・ それまでは離婚に際してさほど「我が身を削る」想いも しなかった私に、あまりに厳しい現実が待っていた。
- 21 :賢治:04/05/14 09:28 ID:2cLMr8uP
- 通代が水商売に生活の基盤を見いだした事は
さほど驚きではなくむしろ予測の範囲だった。 当然帰りは真夜中になるというので 一時をまわってから家をでた。 突然の訪問ではあるが 「どうせ飲んでばかりでロクな物食べてないんだろ」 という大義を繕う用意があった。 今晩は早い時間からそのつもりで、夕食用の餃子を多めに 包んでおいて持って来た。 通代の好物でもある。 「一人暮らしも寂しくなって来た頃であろう・・ 元夫のこの、はからいに感激する筈だ」 私には明らかに、そういうもくろみがあった。 いや、そのもくろみが強かったと言おう。
- 22 :賢治:04/05/14 09:47 ID:2cLMr8uP
- ドアのノブに手をかけ回すと、カギは開いていた。
「こんな時間にカギが開いてる」 そう思ったが、それは突然の訪問を演出するには 有り難い程好都合である。 そっと覗くと左手にキッチン、右手にバス、中央の 廊下の奥にドアがあった。 一歩玄関に踏み入った時、初めてそこに男性用の靴が ある事に気づいた・・。 と同時に、奥のドアの向こうから営み中の男女の声が 無防備に聞こえて来た。 明らかに通代のそれであった。
- 23 :賢治:04/05/14 13:18 ID:4OWsEWar
- 「仕方がない、通代と俺とはもう他人なんだ」
家を出て三ヶ月も経ち、通代には職場という あらたな出会いの場もあったのだ。 既にその様な存在があっても突拍子もなくおかしくはないのだ。 流れる涙を拭きもせず泣いた、初めて己の浅はかさに悔し泣いた。 「通代を手放したくはなかった」 そうはっきりとそして強く自覚した。 家を出るという妻に対して、夫婦の間の「駆け引き論」を 念頭に置く浅はかな男である。 「どうせ直ぐに戻ってくる」 どこまでもそんな見当違いが邪魔をした。 どれぐらい後悔しても遅いのだ・・・私は幼い子供の様に泣いた。
- 24 :賢治:04/05/14 15:51 ID:6s8gmoPp
- 例えようのない感情の波が、押し寄せては
私自身を押し潰した。 「あ、あ、あ、あ、う、うう・・・」 ちっぽけな男が、声にならない声をこらえきれずに 漏らして泣いた。 歯を喰い縛ってしゃくり上げると、鼻の奥を削られるような 痛みがはしった。 つらさが短時間で限界に達し、思考回路を占領すると 「まあいい、しょうがない」 一瞬、そう思おうとするが直にまた堪えきれない感情が襲う。 繰り返す中、永遠に続くかとも思われた夜が明けた。 子供達のはしゃぐ声を背に朝食の準備をしながら・・ 「すまない・・」 かろうじて維持する理性が、今度は子供達に申し訳なく 思わせ涙を流させた。
- 25 :賢治:04/05/15 08:35 ID:ZkbZgo8n
- 通代が誰かに抱かれているという事実を
あれ以上に残酷に告知される事はない。 しかしそれをまた、知らぬ当人からは極々普通に連絡がある。 「今度の日曜は暇やから、一日子供みとるで あんた少しゆっくりしいやぁ」 子供と離れて生活する中での心境の変化か・・・ 意外な申し出に応える事にしたが、しっかりと化粧をを施し 派手目の服装の通代を直視する事は出来なかった。
- 26 :賢治:04/05/16 07:59 ID:II91w+6G
- 久々に自分の時間を持ち、落ち着かない気分で家を出た。
とりあえず仕事場でゆっくりコ−ヒ−を飲みながら朝刊に 目を通す。 近日中、頭を離れなかった悪夢がこの時間は意外にも霞んだ。 仕事場を出ると隣のパチンコ店に入った。 チェーン店の中でも客入りは悪いが、妙に落ち着く場所であるのだ。 小一時間も経つと、ここまで使われなかった運が一挙に噴出したのか どうか・・・・いつになく好調だ。 「こういう事もなきゃあな」 などと呑気な気分になり掛けた時、携帯が鳴った。 「早く帰って交代してぇ。とってもじゃあないけど 疲れて面倒見切れへんわぁ」 今日一日、子供の世話をすると言った通代から そう連絡があったのは私が家を出て、まだわずか二時間余りの事だった。
- 27 :賢治:04/05/18 08:23 ID:/ECRmqr9
- 通代に男がいたのが実は、私の妻であった頃からと
知ったのは・・・それから間もなくであったが、それさえも 霞む衝撃が私の平静を揺さぶった。 「森上さんのお宅ですか、焼津警察署ですが・・」 通代が飲酒運転の上、人身事故を起こしたというのだ。 「それもね人をはねた後、逃げてるんですよ」 お宅の奥さんが・・・という警察官の言葉が気に掛かったが とりあえず聞き流した。 「すいません、通代と代わって頂けますか」 「お前、俺の女房だって名乗ったのか?」 「だってこんなん、私一人じゃあ何とも出来んじゃん」 「私一人ってお前、・・・男がいるんだろ!?」 「え・・・・」
- 28 :賢治:04/05/18 08:54 ID:/ECRmqr9
- 翌日、通代が仕事をあがった後に会う事になった。
午前1時の待ち合わせに、30分程遅れて現れた通代は 本人の話通りどこから見てもホステスだった。 「仕事はちゃんと行ってるのか・・」 「うん嫌なお客もいるし、やんなっちゃう時もあるけどね」 「そうか・・」 仕事が終わった直後の通代と話をするのは、初めてではなかった。 その度に、疑問には思ったが口に出来なかった一言を ためらいもあったが・・ 「聞くけどさ・・・お前ホステスしてるって言うけど、 仕事帰りに会って酔ってた事ないけど、ホステスじゃなくて 風俗で働いてるんじゃあないのか・・?」 と、一気に言葉にした。
- 29 :賢治:04/05/18 09:05 ID:/ECRmqr9
- 「わかったかぁ・・・私ね、上手になったんだよ」
大して悪びれるでもなく話す道代に、間をあけずに 応えることで自分の動揺を隠した。 「そうだと思ったよ、でもさあ元亭主として言わせてもらうけどさ・・ お前程度のテクで商売になるのか・・?」 うまく切り返したと思ったが次の通代の言葉に 流石に表情がとまった。 「馬鹿だねあんた、女だっていうだけで商売にはならないんだよ・・ 最初はちゃんと、お店の上司とかで何度も練習するんだよ」
- 30 :賢治:04/05/18 09:39 ID:/ECRmqr9
- 「そうか役得だなあ、そいつら・・」
辛うじてそう流してから、慌ててニヤケ顔をつくった。 数ヶ月前まで夫婦であった二人の会話であろうか。 しかし元亭主である私に、淡々と話す通代に怯む理由にはいかなかった。 いや、その駆け引きに集中する事がその場をしのぐ 唯一の手法だったのだ。 後日、しばらく続く苦悩の日々を思えば よくぞこの場限りにしても、あの程度の動揺に押さえられたものだ。
- 31 :賢治:04/05/18 13:33 ID:zUu1DFES
- その後何かにつけ、保身の為には
あらゆる嘘をつき通そうとした通代が・・ 風俗店で働いている事だけはアッサリと認めた。 家を出る事も止めず、離婚届の提出も躊躇しなかった私の 反応を伺ったのか・・いやそうではない。 それからの通代は会う度に、平気で仕事の話をするようになった。 「今日ねお客でK-I戦士のあの人来たよ」 などとはしゃいだり・・ 「変なとこにキスマ−クつけたがるお客がいてさ」 と、まるで普通の職場での愚痴のようにつぶやいた。 私は元夫として・・・ どこまでも理解のある人間になりかったのだろうか。 それとも、つまらない意地の為に 通代に対する未練を何処までも隠し通したかったのだろうか。 何れにしろ通代の風俗店勤めを放置した代償は、すぐに 思い掛けない形で降りかかって来た。
- 32 :賢治:04/05/18 13:53 ID:zUu1DFES
- 毎日午後6時になると、仕事を中断して保育園のお迎えに行った。
私は一日の時間の中でも、この時間が好きだった。 土手沿いに歩くその道は距離も程よかった。 なかなか、父親と一緒にいる間もない小学生組も よく、この散歩がてらのお迎えに参加した。 歩きながら様々な話をする、学校の事、友達の事・・ 子供達が競うように、私と話したがる事も愉快で幸せだった。 また、保育園組が・・迎えに参加してくれた小学生組に 「まな〜!」 「しん〜!」 と、名前を呼びながら嬉しそうに 抱きついていく光景を見る事も、親として幸せな瞬間であった。
- 33 :賢治:04/05/18 14:08 ID:zUu1DFES
- そんなある日のお迎え・・
「森上さん、ちょっと・・・」 と、園の先生に呼び止められた。 「あの・・」 と一度はためらいながら 「お子さんのお母さんを、お母さんの職場で見掛けたという 御父兄がいらっしゃるんですけど・・」 ・・・・・・・と続けた。 物を持ってまわった口調に、何を言わんとしているかが強調された。 「通代が風俗店で働いている事が見つかったのだ」 そう思うと血の気がひいた。
- 34 :賢治:04/05/18 14:18 ID:zUu1DFES
- 「お父さん、御存知だったんですか・・」
と聞かれたが 「いろいろと御迷惑をお掛けします」 と、頭を下げただけで直ぐにその場を離れた。 帰りの道々、足元ではしゃぐ子供達に上の空で 返答をしながら・・・ 胸がムカムカし、キュ−っと胃が締め付けられるような 自分に、大きな不安がよぎった。 「もう、限界かもしれない・・・」
- 36 :賢治:04/05/18 15:26 ID:zUu1DFES
- いかに苦悶の日々であろうとも、その傍らで
日常は存在し続ける。 五人の小学生と、三人の園児を抱えてのそれは 立ち止まる事も許されなかった。 確かに「離婚」という、社会的にも子を持つ親としても 望ましくない状況ではあった。 しかし、子供達に与える影響はやはり少しでも押さえたい・・ その想いだけで、子供と接する時だけは何事もないかの様に 振る舞う事が出来た。 只々、その存在の偉大さにあらためて感謝するのであった。
- 37 :賢治:04/05/18 16:00 ID:zUu1DFES
- 何度も、崩れそうになる気持ちを建て直し、しかし直ぐに
またその気持ちも途切れる。 そんな繰り返しの中、またもや 「子供が出来たんやけど、どないしよ」 「あの男、働かへんし子供産んでもやっていけるか解からん」 この頃はもう、一緒に住んでいる男の存在を認めていたが・・ 私と夫婦であった時からの不倫を知られたくないが為、最初に 問うた時は嘘に嘘を重ねて否定した通代からの一報であった。
- 39 :賢治:04/05/18 18:41 ID:mP/DaeuY
- 「そんな奴のとこで子供産んだって不安だろ・・
俺んとこ戻って産んだらどうだ? 俺んとこで俺の子としてそだてりゃあいいよ」 自分でも驚くほど素直に言葉が出た。 「本当に戻っていいの? ありがとう!」 「うん、俺もお前が出て行ってからちょっと物足りなくてさ・・ こんな気持ちでいるより、戻って来るつもりがあるんなら 戻ってもらった方がいいや。」 「うん、うん・・・」 そう答える通代の声が震えた。 「これでいい、これでよかったんだ・・子供は誰の子だって通代が 産むんだから俺の子供と血を分けた兄妹だ、関係ない」 そう思うと目の前がパッと明るくなった。
- 40 :賢治:04/05/19 09:08 ID:g9qO1eWv
- これで万事が上手くおさまる、そういう思いがあった。
不倫のあげくに出て行った通代をまた迎い入れる、しかも その相手の子供も実子として育てる決意であるのだ・・。 「男つくって逃げた女房を家に入れるのか」 などと揶揄する輩もあろうが、この度量の前には とるに足らない。 誰が私を責められようか、と揚々だった。 通代が出て以来、どれだけ惨めに涙を流したかなど 誰に推し量られようもないのだ。
- 41 :賢治:04/05/19 10:01 ID:g9qO1eWv
- 通代は帰って来る、そのお腹には生命が宿っているのだ。
そう思うとその子はもう、既に私の子供なのだ。 沸々と嬉しさがこみ上げた。 通代と暮らした十年に満たない時間の中で 八人の子供が産まれた。 だが実は九人目の子供も妊娠していたのだ。 しかしこの世に出してやる事が出来ず、生涯忘れ得ぬ キズを負った。 そのキズさえも癒えるのではと感謝した・・。
- 42 :賢治:04/05/19 10:21 ID:g9qO1eWv
- 早速、細かい話を詰めなければならない。
通代の気持ちはともかく相手の男の事もあるのだ。 子供の誕生と復籍を考えればそれは早いに越した事はない。 翌日、仕事の昼休みに通代のマンションに向かった、気分は軽かった。 聞いておいた暗証番号を押すとドアを開け、そっと中に入った。 復縁がまとまり電話を置いたのが午前二時過ぎ・・ 確実に通代はまだ寝ている、ブランチでも用意してから起こせばいい。 確認すべく部屋のドアをそっと開けるとそこには 男と重なり、正に最中の通代の姿があった。
- 45 :賢治:04/05/19 11:00 ID:g9qO1eWv
- 「お前等、この野郎!」
私の声と同時飛び上がった二人は慌てて布団で 身体を隠そうとした。 「いいから起きてここに座れ!」 並べて正座さた二人の身体はまだ火照っていた。 「お前なぁ、昨日の電話は何だったんだよ!」 と通代に詰め寄ると男が動こうとした。 「かばうんじゃあねえ!座ってろ!」 そう牽制すると通代の肩口を蹴りあげた。 「昼間っから・・犬っころかお前等ぁ」
- 46 :賢治:04/05/19 11:13 ID:g9qO1eWv
- 「大体、お前もなあ・・」
と言いながら足先で男をこずくと 「やめてよ!」 念を押すような言い回しで通代が怒鳴った。 私に牽制され、動こうとしなくなったこの男を 通代は正面からかばった。 「別れ話は済んだんだよ、あんたんとこに帰るって言ったら 良かったねって言ってくれたんだよ!」 「何言ってんだ馬鹿野郎!じゃあこれは何なんだよ」 顎で状況を指しまわすと・・ 「だから・・お別れの前に最後にもう一回、って・・」 ・・・・・男は相変わらず無言だった。
- 47 :賢治:04/05/19 13:24 ID:g9qO1eWv
- 「あのなぁ、お前等も嫌になって別れるんやないで
気持ちは解るけどな、俺に知られた以上復縁の話はチャラやで」 裸のまま並ぶこの二人に当然の宣告と思ったが 「なんでぇ!また一緒に暮らすって言ったやん!」 と通代が叫んだ。 「アホかぁ!こんなん見しといて 何でや言うのがおかしいわぁ!」 それでも通代は 「一緒に暮らすって言うたやん、あれウソかぁ? なぁなぁ、一緒に暮らすって言うたやん!」 と悪びれるでもなく言い寄った。
- 48 :賢治:04/05/19 15:24 ID:g9qO1eWv
- 通代の、一切常識や観念の通じない所には一緒の頃から本当に往生した。
新婚三ヶ月の頃に風俗で働かれた時には、私の理解の範囲を遙かに 越えた出来事にのたうち回って苦しんだ。 子供が出来てからも、私が会議で終日出掛けるとその間一切 子供に食事を与えない母親であった。 家事は全く手をつけず、我が家の経済がいかに苦しくても 親から貰ったお金で酒を買い肴を買い、晩酌をする毎日だった。 私の稼ぎからの支出ではなく文句を言う事はしなかったが その事で度々子供達につらい思いをさせる事があった。
- 49 :賢治:04/05/19 15:32 ID:g9qO1eWv
- ある日朝食を作っていると長女が起き抜けに・・
「昨日うちにお刺身あったの?」 と言う。 「電話も止まってるのにお刺身なんてないよ!」 「だって、テレビんとこにお刺身食べたあとがあったよ」 見に行くと明らかにその通り、昨夜通代の晩酌時の痕跡が ハッキリとあった。 「いいなぁ、愛代もお刺身食べたかったなあ」 娘は何の思いもなく言うのだが、それをしてやれない親は つらかった。
- 50 :賢治:04/05/19 15:47 ID:g9qO1eWv
- 子供が夜中にふと目を覚ますと
通代が一人でボリボリお菓子を食べている姿をよく見たそうだ。 目でも合おうものなら・・ 「人が物を食べてるのをジッ見るんじゃあないの!早く寝なさい!」 と怒鳴られたという。 「ひっでぇ母ちゃんだったなあ」 と今でも次男が笑って話すが、当時そんな話を聞くと切なかった。 食べ物の事は小さな子供にはむごい ましてや普段充分に与えている家でもない。 その都度注意をするのだが、通代の態度は何時も一緒だった。 「解ったって!子供にもやればいいんでしょ!」
- 53 :賢治:04/05/19 22:52 ID:jEdCqUHr
- 一度は成り行き掛けた復縁の話も
もう私には興味のないものになっていた。 しかし、復縁話のきっかけとなった通代のお腹の子には そう簡単に興味を失う理由にはいかなかった。 私の元へ帰る事が難しくなったとみるや、通代と、相手との 間でお腹の子を堕胎すべきという話が持ち上がっていたからである。 二人の問題であり二人で考えるべき事ではあるが・・ その論点が、小さな生命を存続するや否やでありそれが 正に、二人の判断に委ねられている事が理不尽でたまらなかった。
- 54 :賢治:04/05/19 23:15 ID:jEdCqUHr
- 一度頷いた為に、その後何度も復縁をせまる通代に
「じゃあさ、俺達の九人目の子・・ ダメになっちゃったの何月の何日だった?」 と聞いた事がある。 「もし覚えていてくれたら復縁の話、もう一度考えてもいいよ」 そう付け加えたが、復縁してもいいと言い切らなかったのは もしかしたら覚えているかもと思ったからである。 その一方、私に復縁の意志はないがこれは覚えていて欲しいと いう思いもあった。 現在目の前に存在する私達の子供と、何等変わる事のない 私達の子供だったのだから・・
- 55 :賢治:04/05/19 23:27 ID:jEdCqUHr
- 「ええとね・・あれは11月のね・・ええとねぇえ・・」
「もう、いいよ!」 「何でやぁ、まだ言うてないやん」 通代はその月さえも覚えてはいなかった。 「もう一回、もう一回チャンス頂戴!もう一回言わしてぇな!」 と、まるでクイズにでも答えるように悔しがる通代に もう何も期待をするのは無駄だと思い知った。 あの日私はどれだけ悲しかったか。 「男だったのだろうか、女だったのだろうか・・ どんな顔をした子だったのだろう」 そう思うと耐え切れなかった、やり切れなかった。
- 56 :賢治:04/05/19 23:47 ID:jEdCqUHr
- 「あんたら、子供はもう止めやあ!」
「子沢山は貧乏人の象徴や!世間様に恥ずかしいわ」 何度もそう言われながらも八人年子で出来、産まれてくれた。 家族計画という言葉自体が気に入らなかった。 家族を計画的につくるなんて発想が不愉快だった。 それでも生活はして行かなければならない、その葛藤の中で 結婚9年目にして初めて避妊し始めた矢先、弱気になった 私を蹴飛ばすように出来た子供だった・・ それだけに、嬉しさも尋常ではなかった。 一応気を使ったにも関わらず出来たという、堂々とした言い訳もあるのだ。
- 57 :賢治:04/05/20 08:24 ID:uni6Cu+T
- 平成12年10月21日、信じられない光景を目の当たりにした。
「もう少し横、そうそう・・そこそこ」 台所に立っていると後ろでそんな声が聞こえた。 振り向くとまだ安定期にも満たない妊婦の通代が、うつ伏せにになって 子供に腰を踏ませている。 「うわぁ、何やってんだ!」 通代は涼しい顔で面倒そうに立ち上がりながら 「大丈夫だよ、今までだって結構無茶しても 何ともなかったんだからさ」 そうは言うがそれにしても無頓着が過ぎる。 「一応、明日病院で診察してもらうんだぞ この、バッカヤロー」 「はいはい・・」 通代はまた面倒そうに髪をかき混ぜた。
- 58 :賢治:04/05/20 09:14 ID:uni6Cu+T
- 次の日に通代から仕事場に電話があったのは
午前10時過ぎの事だった。 「ごめん、ダメだったみたい」 心の準備をさせるでもなく、さらりと言いのけると 「すぐに掻き出さないといけないみたなんだけどさ・・ やって貰ってもいい?」 あまりに現実離れした報告に言葉も詰まった。 「ちょ、ちょっと待て、今日やらないかんのか・・」 「いや、ダメだダメだ・・今日はやめろ、 もう一日だけ待って貰え、いいな!」 「明日になったら、何かが起きるかもしれない・・ その可能性だってあるんだ」 根拠のない希望にしがみつき、必死に不安をかき消した。
- 59 :賢治:04/05/20 09:40 ID:uni6Cu+T
- その晩は子供とじゃれる気持ちにもなれず、子供が寝た事を
電話で確認してから帰路についたが・・その足取りは重かった。 途中、夜半の蓮華寺池公園に立ち寄り ベンチに座るともう、堪えきれず涙があふれた。 我が人生さえも責めた。 いい加減に生きて来た事への報いなのか・・・。 これがもし、失った子が八人の中からであったらその悲しみは 計り知れないぞ・・そのような警鐘にも思えた。 「ダメだ、今帰ったら通代をどんなにか責めてしまうだろう」 そう気がつくと池の周囲をゆっくりゆっくりと歩いた。 11月が近いとはいえ、相変わらず非常識な静岡の気候は この時間になっても程良い温度で、幸福そうな一組が 水際で眠りについていたガチョウをひやかしていた。
- 60 :賢治:04/05/20 10:07 ID:uni6Cu+T
- 生命とは不思議なものだ・・。
確かに八人のどの子供を妊娠している時にも、通代の無茶はあった。 点灯を始めた歩行者用信号に慌てて走り出し、大きなお腹を上下に 揺らしたり・・日常の不満からボトルを空けた事もあった。 それでも望まれた子供は強く、無事に産まれて来てくれたのだ。 今回は、親のあまりの仕打ちに自分は望まれてないと 小さな生命が判断したのだろうか。 いずれ通代にとってはただの「苦い記憶」だったのか、 またそれにも及ばない出来事だったのか・・。 結局決定的な処置を施したあの日を、通代が思い出す事はないのだろう。
- 61 :賢治:04/05/20 13:08 ID:uni6Cu+T
- 月日は刻々と通代に、その決断の時を迫っていた。
「賢治が復縁してくれなんだら堕ろす」 という、脅迫にも近い通代の言葉は・・私の胸中を量っての事だ。 「知った事じゃない!俺には関係の無い話だ」 気持ちの動きを悟られぬよう、間髪を入れずそう答えた。 何という会話であろうか。 その生命は普通に時間を経過さえすれば、この世に一人の 人間として存在する事が出来るのだ。 しかも通代とは、いや私の子供達とも同じ血も分けているのだ。
- 63 :賢治:04/05/20 13:49 ID:uni6Cu+T
- 何が引き留めているのかはともかく、決断しかねている通代の肩を
強く押す人物が話し合いに加わった。 「あんたのお腹にいるのは、人間の子じゃあないんだよ!」 「そんなもん、産んでどないするのぉ!」 通代の母親の剣幕はひどいものだった・・。 これからの娘の人生を思えば、親としてある種の正論なのかもしれない。 だがそこには、同じ「親」として通代に伝えるべきものは何もない。 人間としてと言うのなら尚更の事だ。 しかし・・・ 自分一人で決めずに、実母の後押しでという気楽さも加わってか・・ 通代は堕胎を決断したのだ。
- 64 :賢治:04/05/20 19:45 ID:VQ0LnRSP
- 「今、堕ろしに来てるんだけどさ・・」
通代からの電話に胸がエグられる思いがした・・ 一言も何も言わずに受話器を置いた、何も聞きたくはなかった。 その、物言いに不愉快を極めた。 しかし通代である・・電話はまた鳴った。 「聞いて、あのね・・」 「仕事中だ!切るぞ・・」 「あのさ心音が一つじゃあないんだって」 「え・・・・」 「双子なんだって、どうしよう」
- 65 :賢治:04/05/20 21:18 ID:zW8rQGEO
- 「おっ前なー!」
耐えて耐えて、耐えに耐えた感情が一気に噴出した。 近くにあった本棚を蹴り上げ声を荒げた・・ 「お前はなんでそうやって俺に連絡するんだよ! 自分一人では何にも背負いたくないのか!」 仕事場に居合わせた人間の目などもう、どうでもよかった。 「双子だなんて聞いたら俺がどう思うかなんて・・ お前にもわかるだろうよー!」 「知らん知らん!俺は知らんぞー!」 私の人生には、常にそれを傍観するもう一人の私がいた。 それが故に我を忘れるという事は、この時まで経験のない事だった。
- 66 :賢治:04/05/21 08:35 ID:44ozYj6D
- 頻繁にあった通代からの連絡が途絶え何日かが過ぎた。
我が家は相変わらず慌ただしい毎日であった。 私の仕事場は旧東海道沿いにあり、仕掛け人シリーズの 梅庵の生地とされていた。 商店街は私のような余所者にも感じられる人情があり・・・ 四季折々の和菓子をつくっている時が幸せだ、と言って 目を細める和菓子職人がいた。 頑固一徹で七十代に届いてもガリガリ働くが、他人を よく褒める茶卸業者がいた。 嫁姑の話題を得意にし、看板娘の座に君臨し半世紀の御所がいた。 私はこの商店街での買い物が好きだった。 昼休みにはここで買い物をし、午後の仕事の合間に夕食の 下準備などをした。
- 67 :賢治:04/05/21 08:54 ID:44ozYj6D
- 昼休みになり、何時ものように買い物に出ようとした時・・
「おぅ、久し振りやな」 と、声がする方を向くとそこには知り合いではあるが あまり顔を会わせたくない人物が立っていた。 「ゆっくり話せるとこ、いこかぁ! タクシー呼びやぁ!」 瞬時に私はこの後の自分の運命を悟った。 この人物がどのような用件でここに現れたのか、それは 考える余地もなかったのだから・・・。
- 69 :賢治:04/05/21 09:45 ID:44ozYj6D
- 「すいません、じゃあ貼り紙だけ貼らせて下さい」
すぐに戻らせてはくれまい、と考えつつ紙に向かった。 お客様各位 誠に申し訳ありませんが本日午後の営業は 四時からと・・ 後ろからゴツンと小突かれた・・ 「四時に帰れると思っとるんかい!休みにせぇ!」 考えが甘かった・・と思うと同時に、抱いた不安が 間違いなかった事を確信した。 「覚悟を決めるしかない」
- 70 :賢治:04/05/21 09:58 ID:44ozYj6D
- タクシーで向かう先は通代のマンションだった。
「なんやはっきりせん街やなぁ」 この人物も、いつも面倒そうな物言いをするのだ。 更に窓から街並みを見回しながら・・ 「子供は元気かぁ?」 「ええ、何とかっすが・・」 「そかそかぁ、可愛いやろ? 誰でもな身内は可愛いもんなんや」 数々の武勇伝を持つこの人物は通代の、まさにその身内である。
- 71 :賢治:04/05/21 10:37 ID:44ozYj6D
- ドアを空けマンションに入ると通代は玄関まで走って来た。
「賢治お願いだからまた、一緒にくらしてぇ!」 だが、お願いなんて言い方もこの時の私には 「それがあんたの為だよ」 という脅しの意味合いにも聞こえた。 どうしてこの人物がこの街に現れたのか。 通代の言葉ひとつで、どうにでも説明出来ただろうにと 覚悟を決めた筈の私の気持ちがまた揺れた。 「座れ・・」 玄関先の台所の床に黙って正座をした。 「どういう事や・・」 と、間近から私を直視するこの人物にもはや・・ 説明をする機会は与えられても、それを受け入れられる事はない。
- 72 :賢治:04/05/21 11:10 ID:44ozYj6D
- 「すいません・・」
何に対して頭を下げなければならないのか等、考える必要はなかった。 ただただ、この人物の感情を逆撫でしたくなかった。 不思議なほど恐怖感はなかったが・・・ こうむる被害はやはり最小に押さえたかった。 「賢治・・通代が可愛そうや思わないんか」 私の反応を伺ったが、かわすしか手はなかった。 「本当に、すいません・・」 ひたすら、そう言い続けるしか浮かばなかった。 「すいませんやないんやー!」 と、蹴跳ばされた椅子が遠くに飛んだが 「あの椅子はいいな・・あれだけこの人物から離れれば もう構われないだろうな」 そんな事を思うほど客観的な自分がいた。
- 76 :賢治:04/05/21 15:50 ID:72IzXu8u
- 「賢治よ、お前一度通代にヨリ戻すって言ったんだろぉ?」
そうなのだ、一度してしまった約束を果たさぬのは例え、 それが如何なる理由によろうとも、この人物の前では、それは 明らかにこちら側の落ち度なのだ。 「すいません、申し訳ないす」 その台詞を繰り返しつつも、頭の中では何とか挑発せずに 説明を出来ないものか模索していた。 「大体お前との生活に不満で、通代は家を出たんとちゃうんかぁ!」 突然、私の背後に回るとまな板の上にあった包丁を持った。 「おぉ、こらぁー!」 と威嚇しながら私の額を刃先で二、三度突っついた。 傷は大した事もあるまいが血は大袈裟に流れた。 「やめてぇな!賢治、な、もう一度一緒に暮らそ!」 本気で止めるつもりもない、通代の芝居掛かった声が響いた。
- 77 :賢治:04/05/21 16:25 ID:72IzXu8u
- 「女を下げるなーっ!」
と通代を制止しながら・・・ 「お前からヨリ戻せ言うたらな、お前の価値が落ちるんやでぇ」 そう通代をなだめた。 「なあ賢治、通代がまたお前と暮らしたい、言うとるんや・・ それでエエやろぉ何が不満なんや」 「ホントにすいません、勘弁して下さい」 額の血は止まり、乾いて顔面の皮膚を引っ張った。 依然、その人物の右手には包丁が握られていた。
- 78 :賢治:04/05/21 17:31 ID:72IzXu8u
- 夕方になり保育園の迎え、そして夕飯の時間が近づいたが
私はまだ通代のマンションに居た。 お迎えと夕飯は、通代の母親が面倒をみてくれる手筈に なっているのらしい。 こんな女であっても、通代が子供達にとっては母親であるのと同様に 通代の母親もまた子供達にとっては、大事な存在なのだ。 感情の起伏が激しいこの母娘に、私は随分罵られ八つ当たりされ この十年、過ごして来た。
- 79 :賢治:04/05/21 20:25 ID:72IzXu8u
- 平成三年三月・・
半年前に知り合ったばかりの通代との、何かを 急がなければならないように婚姻話が進められ決まった、披露宴が行われた。 「女冥利につきる」 という通代の母親の発案で、新婦側の友人代表挨拶は 通代が以前、好意を寄せ付き合った男という理解を超えたものであった。 それだけでも忘れ得ぬ出発となったであろうが この日、この母娘に度肝を抜かれたのはその後だった。 お花のお師匠でもある通代の母が、ホテルで飾った花が使い回しだと 怒りだしたのだ。 「出すもんは出しとんのや!なめたらあかんでぇ!」 絨毯に正座させた支配人の膝に、着物の裾をめくって足を置き すごむ通代の母親を、通代の親戚だけがニヤニヤ見守っていた。
- 80 :賢治:04/05/21 21:27 ID:72IzXu8u
- 「今日のお前んとこのおっ母、すごかったなぁ」
本来であれば、披露宴の翌日から仕事をすべき立場にあった この頃であるが、通代の母親に押しきられ温泉一泊だけの 新婚旅行に来ていた。 「ああ、お母さんあの脚には太股んとこに 薔薇を彫ってんねん、見せたがりやねん」 しかし・・ 「今日はちょっと見えにくかったけど」 などと話すこの通代にもこの直後、更に驚かされる事になる。 夕飯も済み何度目かの風呂につかり、新婚初夜の晩をむかえた。 「ちょっとここに座って!」 もう布団も用意した後であり二人とも寝間着に着替えていた。 ふつつか者ですがと古風な挨拶でもあるのかなと思い 布団の上に通代と向かい合って座った。
- 81 :賢治:04/05/22 11:18 ID:GqBGq/pz
- 「あんたね、この世で自分が一番強くて
自分が一番偉いと思ってるでしょ」 言葉は聞き取れたが、言われている事の意味が解らず きょとんとしていると 「それはね、間違いだという事をこれから私が 時間を掛けて少しずつ教えてあげるから」 通代はそう言うや否や、拳を振り上げ躊躇わず私の顔面に 振り下ろした。 握った指の付け根の節で殴らずに肩たたきの如く、それでいて まるで釘でも打ち付けるように振り下ろしたのである。 正座していた私はグラリ後ろによろめき、ギーンと頭が鳴ったが 反射的に腕を支えにし、かろうじて倒れる事は防いだのだ。 ドクドクと鼻から血が流れたが、何が何だか解らなかった。 さっきまでは普通に会話をしていた二人で、ましてや 数時間前に宴を終えたばかりの私達なのだ。
- 83 :賢治:04/05/22 12:35 ID:GqBGq/pz
- 鳩が豆鉄砲喰らったような顔、という表現があるが
この時の私と一体どちらが素っ頓狂な顔だったのだろう。 更に通代は間髪入れず二度三度と、今度はストレ−トを 私の顔面に向掛けた。 どれだけの時間私の思考回路は止まっていたのだろう。 「この野郎!」 我に返るなり立ち上がって通代を睨み下ろした。 「ふん!」 通代は怯むどころか予測の範囲とばかりに睨み返した。 思わず通代の胸ぐらを掴み持ち上げ、布団の上に叩きつけた。 通代は、すくと立ち上がり今度は私を投げようとする。 幼少より柔の道を志した私を無謀な試みであるが、やられた事で やり返そうとする通代の執念と、そのあまりに必死な形相が 熱くなりかけた私を冷静にするのだった。
- 84 :賢治:04/05/22 15:07 ID:MiM9FSlJ
- 確かにこの頃の私は仕事に集中する余りに、助手として
勤めはじめた通代にきつかったかもしれない。 仕事上の妥協は我慢出来ず、若さから周囲にもそれを強要した。 見た目にはよく堪えていた通代が、まさかここでそれを晴らそうと 考えていたとは思いもつかなかった。 「最初が肝心やしな」 と、後にこの晩の出来事を話す通代に 「俺もいきなり、こいつは侮れんと思ったよ」 と私も素直に認めたし、事実その後も 常に振り回される結婚生活であった事は今更である。 また、くどいようだがそれでも我が子等にとって通代は母であり そのまた母親は祖母である。 子と母、祖母の関係を良好に保つ事は私自身の保身にも つながると信じ、気持ちを殺しそれに努める日々にもなった。
- 85 :賢治:04/05/23 13:16 ID:Q03+hbbn
- 通代が借りたマンションは以前、一度だけ勤めたアルバイト先の
目と鼻の先にあった。 不倫相手はそこの上司という、ありがちな成り行きである。 最初、通代は不貞であった事を強く否定したが男はあっさりと認めた。 途端に通代も弱気になった。 「じゃあ俺が迎えに行った時、なかなか出て来なかったのは 中で、お前等がいちゃついてるのを待ってたのか!」 黙って横目でお互いを確認する、二人のそれが言葉以上に答えていた。 己のあまりの間抜けさにあきれる話だが、第三者から見ればどう考えても 通代はとんでもない女である、 ・・さてしかし、そんな話がこの人物の 同情をひきだせるものだろうか・・。 そんな事を思いながら、通代のマンションでの押し問答はまだ続いていた。 何事につけ面倒な性分の私もここは、譲る理由にはいかなかった・・ ・・・・・僅かに残した自尊心をも譲る理由には。 私が拘束されてからもう七、八時間は経っただろうか。
- 86 :賢治:04/05/23 15:57 ID:oTqN+v42
- 長い午後はなかなか終わらなかった。
予め長くなると解っていれば、こんなには頑張れなかっただろうと 思う程、私の中ではこつこつと時間を積み重ねた。 曲がりなりにも十年近く続けてきた親戚関係、私の客観的な落ち度、 子供達に対する影響を考えると・・ 「この人物が俺に出来る仕打ちは限度がある筈だ・・」 その思いだけを頼りに首を振り続けた。 「勘弁して下さい、(復縁は)無理なんす」 「賢治、また一緒に暮らすって言ってくれたじゃない」 「お前は黙ってろ言うとんのや!」 そんなやりとりが結局十四時間余りも続いたのだ。
- 87 :賢治:04/05/23 16:22 ID:oTqN+v42
- 朝方三時をまわった頃、それまで包丁を突きつけたり蹴飛ばしたり
威嚇的ばかりだったその人物も・・ 流石に体力を消耗して来たのか急に、なだめ口調になった。 「なあ賢治、通代も反省しとんのや・・ それでエエんちゃうんか!・・なあ?」 ここで活路を、見い出さねばとそれに応じた。 「自分も何が何でも許せないとか、そう言うのとちゃうんすよ」 「じゃあ何や、言うてみぃ・・」 今が絶好のタイミングだと見計らって、私の中では伝家の宝刀とも いうべき次の一言を放った。 「通代が、あの男の子供を俺んとこに戻って産みたいと 言って来た時に、確かに一度は了承はしました」 でも・・と次の日にこのマンションで、事の最中であった二人に 遭遇した出来事を持ち出した。 建前にしろ義理を語るこの人物である、私はその反応を待った。
- 88 :賢治:04/05/23 16:48 ID:oTqN+v42
- 「それが自然の流れというもんちゃうかぁ?」
私の切り札は気が抜ける程、事も無げに一蹴された。 「好き合うた二人が別れるんや、そうなるわい・・ 賢治、それぐらいの度量は持てや」 不倫相手の子をお腹にでも、帰って来いと言った私には 度量が無かったのか・・・ あまりに簡単に望みを絶ちきられ、この人物の言う事の方が 正論であるかのような錯覚さえ起こしそうであった。 この瞬間、私の気力は完全にその緊張の糸を切った。 「解りました、解りましたから帰らせて下さい」 意図とするしないではない思考の中から、私の口は そう、言葉にしてしまったのだ。
- 91 :賢治:04/05/24 08:18 ID:hs4FMmlH
- 私の、解ったという言葉を聞いて通代は
「ありがとう、ありがとう・・」 と言ったが危うく睨みつけそうになり、唇を噛んだ。 「賢治、顔洗いな・・」 と、タオルを差し出し洗面所を促す通代の手が私の 背中に触れた・・・言い様のない怒りがこみ上げそうに なるの堪え、一人洗面所に向かった。 鏡に向かうと顔面を流れた血が固まり、ペンキのように 剥がれかかったり、ジグゾーパズルのようにひび割れていた。 閉めたドア越しに 「賢治、大丈夫かなぁ・・・」 と通代の声が聞こえた途端、私の目からドッと涙が溢れた。 「誰のせいで、誰がこんな目にあわせたと思っているんだ」 熱い熱い涙が頬を伝った。 うっすらと、私の中である決意が芽生え始めるのを感じた。 そして冷たい水で顔を何度も洗ううち、その決意が揺るぎ無い ものに変わっていった。
- 92 :賢治:04/05/24 08:48 ID:hs4FMmlH
- 自宅に向かうタクシ−の中で、もう私の気持ちは固まっていた。
後は実行するのみだ、という意志以外の全ての思慮が・・まるで、 私には及ばない次元の力で排除されていく様だった。 住まいである公営住宅の、少し手前でタクシ−を止め歩いた。 理由もなく、全身のあらゆる感覚が鋭敏になってくる。 住宅の前では通代の母親がタクシーを待って立っていた。 「終わったらしいなぁ、子供はよう寝てるでぇ」 「御迷惑をお掛けしました、ありがとうございます」 「あんたも疲れたやろ、早よ寝ぇな」 「じゃすいません、お先します・・」 そんな会話を不思議なくらい、そつなくこなし階段を 登っているとやがて車が止まり、走り去って行くのが見えた。 ペッ!・・思わずそれに向かって唾を吐き、私は子供達の 待つ部屋に向かった。
- 94 :賢治:04/05/24 09:29 ID:hs4FMmlH
- 子供達はよく眠っていた。
今晩何があったのかなど関係のない寝顔にホッとした。 「俺も親なんだよなぁ・・」 と今更ながら実感した。 今までも確かに子供達は大切な存在ではあったが・・ 子供の顔を見て癒やされるような父親ではなかった。 日常の家事に追われ、本業にも向かう日々の中・・ いつも子供の持つ特有のエネルギ−に圧倒された。 時に子供を疎ましくさえ思う自分の中に、無償の愛があるべく 親としての資質の欠如を感じていた。 それだけに今、子供達の寝顔に癒やされる自分自身にも また深く安堵したのだった。
- 95 :賢治:04/05/24 10:05 ID:hs4FMmlH
- 時刻は夜明けをむかえ磨りガラスの向こうが
白々として来たが私はゆっくり風呂につかっていた。 「疲れた・・」 それ以上の気持ちも、それ以下の気持ちも湧いて来なかった。 身体のあちこちが痛み様々なアザが出来ていたが 「結構やられたなぁ・・」 それ以外の感想もなかった。 風呂から出て子供達の布団にもぐりこむともう、 全てがどうでもよくなった、薄笑いさえこみ上げて来た。 非日常過ぎた今日を終え、果たして眠れるものかどうか 結論から言えば・・ 「寝よう寝よう!」 誰に言うでもなく声に出して目を閉じた私は、 いつ以来であっただろうと思う程深く眠ったのだ。
- 96 :賢治:04/05/24 13:20 ID:+JXUbxdQ
- 朝だ、その気配で飛び起きるといつもに増して
手際よく朝食の用意をした。 「父ちゃん昨日どこいってたのぉ」 「いいのいいの気にすんな」 と、答えにならないあしらいをして朝食を摂らせ その間に職場まで急いだ。 昨日の昼に貼った貼り紙をはがし、新たなものにした。 お客様各位 本日の営業はお休みさせて頂ます 誠に申し訳ありません 店主 うまいぐあいに、誰にも声を掛けられずに済ませ家に戻り 子供達を送り出した後・・・ 「さて・・」 と、自分を促すように声を立ててから受話器を取った。
- 97 :賢治:04/05/24 13:47 ID:+JXUbxdQ
- 「もしもし、ちょっと叔父さんに代わってくれるかな」
案の定御機嫌で「お早う」と、澄ました声で電話に出た通代に告げた。 「賢治です、昨日のお話ですけどもやっぱり もう、通代と暮らす事は考えられません」 目をつぶって、自分の声に集中しながら一気に宣言した。 「お前どないなっとんのや!」 「申し訳ありませんが・・」 「どう落とし前つけるんや!昨日の今日やぞ!」 「これからそちらに伺います」 受話器を置き、さあここからだと思うと身が引き締まった・・ 昨夜の決意は、今朝になっても微塵も緩んではないのだ。 普段の行動は殆どが自転車であり、通代のマンションも自転車での 行動範囲であったが車のキーをとった。 途中で誰かに会い、今の自分の顔を見られたくなかったのだ。
- 98 :賢治:04/05/24 14:32 ID:+JXUbxdQ
- 出掛け先は勿論通代のマンションであるが、その前に
寄らねばならないところがあった。 自分の仕事場のある商店街を通り抜けながら、もう少しで ここを離れる結果になるのかもと、そんな思いが頭をかすめた。 日韓共催のワールドカップの会場ともなった静岡県は翌年の 国体も控え、商店街を抜けた先の橋は、それに向けて取り壊され 既に新しい橋が出来上がっていた。 その新橋の手前の金物屋の前に車を止めた。 「こんにちはー」 「はーい」 「すいません、包丁が欲しいんですけど」 「どんな物がいいでしょか・・」 「あんまり、いい包丁って買った事ないんですけど 今回は少し頑張って、いい物欲しいんですけど」
- 99 :賢治:04/05/24 14:53 ID:+JXUbxdQ
- はりこんで高値の包丁を選んだのは、自分に対する敬意であった。
今日この包丁をどう使うかは、私の人生をも左右するのだ。 今朝貼り替えた紙が貼ってあるシャッターを、少し開けて仕事場に入った。 真っ暗なところに、シャッターの下から入る商店街からの 光だけが入ってくる。 箱から出した包丁を右手にかかげ、確かめるように見回し 次に左手の小指をまじまじと見つめた後、そっと唇にあてた。 「すまないなあ・・」 それだけは声に出してつぶやいた。 いよいよ、その小指を電話帳の上にのせると右手に持った 包丁を思いっきり振りおろした。 ビーン!と指先がしびれた。
- 100 :賢治:04/05/24 15:18 ID:+JXUbxdQ
- 転がった指先を見ると、ためらったが為に勢いが不十分で
あったのか、はたまた瞬間に目を閉じ包丁が斜めにあたったのか 切り口は潔くなく、不細工だった。 直ぐに拾い上げてその切り口を覗いた、心配だったのはちゃんと 骨まで切断出来ているかどうかだった。 爪は全てついてはいるものの、思ったより先端を切ってしまった。 骨は斜めに切断され、尾をひくように薄くのびていた・・ どうやら、包丁が骨の上で滑ったらしい。 「よかった、何とか形はついた」 とにかく、やろうと思った事はやったと切り落とした小指を ハンカチに包んで胸ポケットにしまった。 その指はもう、冷たくなっていた・・。 「これでもダメな時は・・・」 そう思い包丁をタオルに包み上着の下に隠した。
- 102 :賢治:04/05/24 19:23 ID:+JXUbxdQ
- *101の方ありがとうございます。
しかし指の切断の描写に関しては100で「しびれた」 と書いてしまいましたし・・実際に痛みは感じないのです。 御協力は有り難いのですが100からの続きとして 次を書かせて頂ます。 加えて、読んで頂きコメントしていただいた方々に何の 反応もしなかった失礼をこの場でお詫びします 賢治
- 104 :賢治:04/05/25 08:26 ID:vS3CAMvu
- 「おはようございます」
玄関のドアを開けると、奥の部屋からはあの人物が顔を出し 「賢治、お前どない・・・」 と言葉を出しかけた時、私の左手が目に入ったらしく一瞬黙った。 私は、この瞬間を逃してはとばかりに胸ポケットから ハンカチの包みを取り出し、玄関の床に置きゆっくりと開いた。 「これで勘弁して下さい」 その人物が反応するまでには、間があった。 手仕事の私にとって左右の指は大切な商売道具である。 ましてや突発的な事故に依る欠損でもなく、私の意志で 切り落として来たこの指を・・ 「こんな物、何の価値があるんだ」 と踏みつけられた時の覚悟も出来ていた、微塵の理性も 保てずにきっと、本能のままに振る舞う事になってしまうだろう。
- 105 :賢治:04/05/25 08:50 ID:vS3CAMvu
- 左手を止血せずにコンビニの袋に突っ込み、血が
たまったまま、ぶら下げて登場したのも狙い通りであった。 指の先は大袈裟に出血する部位でもあり、通代のマンションに 到着したに時は、小さめの袋ではあったが半分以上の量の血が たまっていたのだ。 「血の袋に気がついた瞬間が勝負だな」 また実際に今、そのタイミングで虚を突いたまでは思い通りだ。 運命を握る、その人物の反応を待った。 その反応次第で一連の流れに終止符が打たれるのか、若しくは あらたなステージに発展するのかが決定するのである。 心境としてはただ、スタートの合図からこの人物を圧倒すべく あらたなステ−ジの開始だけに集中した。 その人物は・・・ 開いたハンカチの上にある、小指に目を落としながら 「そうか・・」 と一言だけ漏らした・・。
- 106 :賢治:04/05/25 09:09 ID:vS3CAMvu
- 「こんな事しか思い付かなかったんで・・」
と、更に反応を促すとついにその人物は 「もうエエ・・解ったわぁ」 私は即座に引き下がる事は、「してやったり」を悟られるような 気がして、わざとゆっくり言葉を置くようにこたえた。 「ありがとございます・・ 色々と・・お手数を、お掛けしました・・」 黙るその人物の前に、また丁寧にハンカチを指にかぶせて 押しすすめ・・ 「それじゃあ今日のところはこれで失礼します・・」 一礼をして下がると、ゆっくりドアを閉め カチャリと確認すると・・・ 「ほぉおー!ふぅうー・・」 ・・・・と大きく息をついた。
- 107 :賢治:04/05/25 11:03 ID:vS3CAMvu
- 車を走らせながら次の目的地に向かった。
通代と暮らしていた男は数日前から実家にいるらしい。 静岡県内ではあるが、隣県との境にその実家はあり 東西に長いこの県の中程に住んでいた私からは、少し遠出になった。 「あの人物の今の胸中はどうなんだろう・・」 100km程先の目的地に向かう車の中で、私の起こした行動が この先どう動くかを考えた。 あの人物の胸次第で、通代の意志を押さえる事は可能であろう。 今時、その世界の人達でもしなかろう私の振る舞いが、所詮 「ごっこ」で終わってしまうのか・・。 どこからでも因縁のつけようはあるだろうし、まだ油断は 出来ないと自分に言い聞かした。 それにしても前夜あの状況にありながら、包丁を持った あの人物に対して・・ 「手だけは勘弁して下さい!手は商売道具ですから」 と、前フリをして置いた私もふてぶてしいものがある。
- 108 :賢治:04/05/25 11:20 ID:vS3CAMvu
- 運転をしていると、今まで経験をした事のない不思議な
感覚が何度か襲ってきた。 たとえて言えば非常に強い睡魔が来た時のあの、意識が 遠のく状況から眠さだけを除いたような感じである。 眠さはないが、意識がすうっと浅くなりかけては我にかえる その繰り返しである。 「止血しようか・・」 そうも思ったが、このままで乗りこんだ時の迫力を 想像するとそれも惜しかった。 三十代も終わりに近くなった平成十三年の夏前・・ 初めて経験する、出血による貧血であった。 道を知らず、尋ね尋ね車を走らせ目的地に着いたのは もうすっかり昼をまわった午後であった。
- 109 :賢治:04/05/25 12:27 ID:vS3CAMvu
- 通代の男の実家は東海道線の線路沿いにあり、古い
軒並みの中に違和感なくその家はあった。 「こんばんはー!」 声を掛けると出てきたのはきっと、話に聞いていた 実兄なのであろう、見知らぬ男性であった。 「森上といいますが、耕司さんいますかね・・」 穏やかな口調では言ったものの、私の左手に視線を向け 「ちょ、ちょっと待って下さいね・・」 と慌てて奥に戻るとその奥から 「森上さん?ウソだろぉー・・」 と言う声が聞こえて来た。 驚くのも無理はない、まさかこんな所に 現れるとはという、思いがあるのだろう。 しかし、痛い思いをした左手はハッキリと印象づけようと 思いそのまま来たが、男に対して激高していた理由ではなかった。
- 111 :賢治:04/05/26 08:53 ID:Dha0E2IC
- むしろこの耕司には同情さえしていた。
一緒に暮らしながら、通代が風俗に勤めているのを黙認するような 男でもあるがすべてみな、通代に主導権があったからである。 結局、数ヶ月後にこの男は生まれ故郷を出て逃亡してしまうのだが それもこれも・・・あの通代に関わったからだ。 「ど、どうしたんですか!」 「ちょっと車の中ででも話そかぁ」 驚きながら、私の左手を見るのを放っといて外へと促した。 車の前で、血のたまった袋を手からはずし地面にはなすと 「バシャッ」と落ちて、ゲル状に固まりかけた血がドロッと 袋から流れ出た。 これ見よがしの演出であるが、この男に効果は充分であった。 気の小さなこの男はきっと、この後の話し合いに駆け引きを持ち出す 余裕はもうないであろうと確信した。
- 112 :賢治:04/05/26 09:13 ID:Dha0E2IC
- 「耕司、いいか俺が復縁を免れた以上、お前が後を
引き受けるしかないんだぞ・・お腹の子供の事も よくよく考えて決めるんだぞ」 「な、なんとかならないですかねぇ」 「それを俺に言うのは見当違いだよ・・」 私が耕司の所に来た目的は今後について、特に通代のお腹の双子が 気に掛かった事と、他にもう一つあった。 それは、耕司の口からハッキリと不貞であった事実を確認し 証拠におさめておく事だった。 無論、あの人物に対しての対策としてである 別れる事は了承したが、どんな因縁をつけて何を要求して くるのかまだまだ予断は出来ない。 「この後の会話は録音するけどな、落ち度がないと思っていた 俺でさえこのザマだ・・もし後から嘘が発覚したらお前、 どんな仕打ちに合うかわからんぞ」
- 113 :賢治:04/05/26 09:43 ID:Dha0E2IC
- 録音すると通告しているのだ・・もう少し言葉の選びようも
あるだろうにと思う程、あからさまに自己弁護をするでもなく 素直に、しかしオドオドと耕司は話をした。 証拠物件としは充分すぎるくらいのものが手に入ったが・・ にも関わらず、何かしら釈然としないものが私の胸につかえた。 耕司との別れ際の会話は記憶にない・・。 気がつくと帰路の車にあり、朝からの出来事を思い返していた・・ 元来、慎重な行動など性にない私が今回はよく辛抱した。 念の為の証拠収集など出来過ぎだと思った瞬間・・ 「何やってんだ俺は・・・・」 急に情なくなり涙が流れた。 衝動にかられる様に先ほどの録音テ−プを取り出し、窓から 投げ捨て携帯電話をとりあげた。 「耕司か、お前頑張れよ! 双子の事もお前に任せたからな、頼むぞぉ!」
- 114 :賢治:04/05/26 10:46 ID:Dha0E2IC
- 程なくして通代と耕司の二人は私の前から消えた・・
思いも掛けない事だが、あの人物のはからいでる。 「もう、賢治の住む街にいるのもいかんなぁ」 の一言で決定したのだ。 耕司の実家から帰った足で、左手の治療に向かった。 県立の総合病院はもう、受付時間をまわっていたが救急での 受け入れをしてくれた。 斜めにカットされた指を垂直に切り直し、その際に骨と肉片を そぎ落とすようにして皮膚だけを残す。 そしてその皮膚をめくりあげ、傷口をふさいぐように縫い合わせる。 「折角残った部分も切り落とすのは、合点がいかないかも知れないけど ・・そうせざるを得ないようにしたのはあなただからね」 指紋が直角に折れ曲がり、平らになった指先を何度も見直しながら 静岡の駅にむかった・・神戸に戻るあの人物の見送りである。
- 116 :賢治:04/05/26 13:45 ID:RwW3Xbtn
- 「お前には割にあわん話になったなぁ、賢治」
「いえ・・・」 深く頭を下げながら 「叔父さんも身体だけは大事にして下さい」 ドアが閉まり、走り出してもホームを離れず 小さくなっていく新幹線を最後まで見送った・・。 離れがたい思いがあった理由ではない、万が一誰かに その後の私の態度を見張らせていないとも限らないのだ。 私は新幹線が見えなくなったのを確認した上に、わざと ゆっくりゆっくり、思案深げな顔をしながら階段を下りた。 駅の手洗いに入ってからも鏡の前に立ち、しみじみと自分の 顔をみながら「ふうぅー」と必要もないため息を吐いた。 そして個室に入り、頭の上をグルリと見回し足下の隙間も確認し、 誰もいない事を確かめて初めて、小さく拳を握りしめたのだ。 「終わった、終わったんだ・・」
- 117 :賢治:04/05/26 14:11 ID:RwW3Xbtn
- 耕司が失踪した、と通代から連絡があったのは案外
それから直ぐの事だった。 「それがな、こっちの病院で検診受けたらな、双子ちゃう言うねん」 筋書きのないのが人生であろうが、衝撃的な事実がそこにあった。 「心音がな、一つやないけど 二つでもない言うねん・・三つ子やて!」 二人がこの街を出る際、耕司に私が言ったのだ・・。 「通代は一切、子供の面倒はみないぞ・・双子だし お前には相当の覚悟が必要だぞ」 事実私は年子であっても、ろくに寝る時間もない育児であったからだ。 それだけでも重圧に感じていたであろう耕司が、三つ子と聞いた 直後に失そうしたのは無理もない事だ。 情けない男だというよりもやはり、可愛そうな奴だというべきだろう。 まだ堕胎出来る段階での失踪は、むしろ賢治なりの配慮ではなかろうか。 それが人としてどうなのかは評価してやれないが・・・。
- 118 :賢治:04/05/26 14:34 ID:RwW3Xbtn
- 「それでお前は産むつもりはあるのか」
「産むのはエエねん、だけど育てられへんわ」 私は戸惑う事なく決断した、三つもの命に 何をためらう必要があろうものか。 「じゃあ産め!産まれた後の事はこれから考えればいい!」 「三つ子かぁ・・」 私は少し興奮している自分が不思議だった、どう譲っても 不快な気はしない報告にまるで最初の子供の 受胎報告を受けた父親のような、妙な気持ちだった。 大層な倫理観なんてものは持ち合わせていないが、新しい生命の芽を 人為的につぶすよりも・・ その誕生を心待ちに出来る事のほうが、幸福な気持ちになるのは当然だ。
- 119 :賢治:04/05/26 15:23 ID:RwW3Xbtn
- 覆水は盆にかえらず、しかし雨降って地固まるとでも
言おうか・・その後、通代とは何度か会い三つ子の将来に ついても相談をした。 復縁はないという前提の上でもあり、私の気も楽である。 三つ子は、通代の育児に対しての意識が相変わらず薄い事から 私が育てる事で同意させた。 同じ母親から産まれた兄、姉もいるのだ心細い事もなかろう。 その条件として名前は私に任せる、実子として私の籍に入れる という二点も確認した。 その後はもう・・ お前は本当に、とんでもない女房だったとか・・ 別れた者同志であって、しかも憎み合ってないという特殊な 状況でなければありえない質問も、折角だからしてみた。 「ところでさ、あの男と俺とのSEXはどっちがよかったよ」 「正直に言っていいの・・?」 などと、たわいもない会話を楽しんだりした。
- 121 :賢治:04/05/27 10:14 ID:UtvD+/LT
- 三つ子だと判ってからも、まだ頑なに堕胎を主張する人間もいた。
生命の尊さであるとか重みであるとか、そんな解釈を持ち出すまでもなく 単純に、普通に考えて我が子を殺すか生かすかという選択である。 それさえも判断を間違う人間にとって、その数が増えようが 全く良心が咎めるものではないらしい。 「あんたからも堕ろすようにいってやぁ!」 と、通代の母親は私に何度も言ってきた。 結構な割合で、あなたの血も流れている子供なんですよ・・孫なんですよ この子等が産まれて来た後、この人はどんな顔で孫を抱くのだろう。 通代の母親という人は、まったく軽い言葉しか持たない人である・・ さしての考えも思いなく発するのだが、説得力を持たせようとして 重い言葉を選ぶが為に更に陳腐になる。 「親っていうのはな、子供の為なら死ねるんやでぇ」 「あんたの事をどれだけ、大切に思てると思ってるんや!」 意見が対立する度に、通代に発する言葉であるが聞く度にこの人は 言葉で聞かせなければ解ってもらえない子育てをしてきたのだなと感じた。
- 122 :賢治:04/05/27 10:43 ID:UtvD+/LT
- 事ある度に大袈裟に通代の弁護をすることで、いかに娘を
大事に思っている母親であるかを主張する人であった。 通代は結婚当初から家事は手をつけない女であり、帰宅後に 明日通代の親が急に来訪するなどとなれば私一人で 寝ずとも住まいを片づけたものだが・・・翌日、玄関先で 「いらっしゃい、どうぞ・・ちょっと散らかってますけど」 と言ってしまい通代の母親に 「あんたねぇ、通代は二十歳の若さで結婚して頑張って やってるんだよ!それを親の前で家が散らかってるなんて 言われたら通代が可愛そうやないの!」 と怒鳴りつけられた事があった。 実家にいた時は何一つ出来ず、社会人になってからも魚の骨もとってやり 爪も切っってやり、出勤の際には靴下まで用意してやっていた娘である。 その娘が、結婚した途端に家事一切をちゃんとこなしてると思える おめでたい母親なのだ。
- 123 :賢治:04/05/27 11:21 ID:UtvD+/LT
- 「サラシはな、真っ新やから価値があるねん」
婚姻の確約をかわした後に、通代の母親に言われたことがある。 「この子をな、私ら大事に大事に育ててあんたに渡すねん・・ 処女であんたに渡すんやでぇ、あんたは幸せや」 あきれて言葉も出なかったが、あやふやに頷いた。 この人の娘に対する評価も不可思議だがその時、側で通代が 「お母さん、何言うのん・・」 とまるで照れたかのように振る舞い、母親の後ろにまわって 私に向かって手を合わせた姿に唖然とした。 この母親は娘がまさか、そんなもの五年以上も前に喪失し その後どんな経験をして来たのかなどは、思いもしない事なのだろう。 東北の片田舎で生まれ、世を知らないだけに描いていた女性への 夢を、通代の一方的に話す性歴にどれだけ私が打ち砕かれ ひしがれたか、その傷口を平気で掻き回された記憶である。
- 124 :賢治:04/05/27 13:11 ID:Cy0vNX2v
- しかし通代の母親が単独で、堕胎を主張する事にはさして
不安は感じなかった。 通代と母親との親子間では決定権は娘にあったからだ。 やがて通代は出産の為に陸奥は岩手県に越す。 今後の話し合いも一時期は友好的な雰囲気であったのだが・・ 情緒が安定しない通代は再度復縁を迫り、断固として拒否する 私に対しての当てつけとして、岩手での出産を決行したのだ。 どうあれ、産まれて来る子等は私が引き取る事は決定であり、様々な 事を考えた結果・・ 育てる場所として雑音の少ない、私の生まれ故郷でもある岩手県を 考えていたのである。 それを知った通代が先回りで岩手に居を構え、出産場所としたのだ。 もし故郷で暮らすのに不都合な問題でも起こされれば、私は折々に 帰る事は出来ても、戻り住むことは成り難くなってしまう。 通代らしいといえばらしい、卑劣な手段である。
- 125 :賢治:04/05/27 15:55 ID:Cy0vNX2v
- とは言え、多胎児を身籠もった通代の身体は心配だ・・
私は経済的な援助こそしなかったものの、入院に必要な 住所の取得、保証人の設定などは積極的に協力した・・ 気持ちの上ではもう私は三つ子達の父親でもあった。 三つ子以上の多胎児の場合、通常の分娩での出産は考えられず 帝王切開というのが一般的である。 しかし中には、帝王切開に適当な時期まで持たずに 早い段階での、それに踏み切らざるを得ない場合もある。 充分な成長を果たせずに産まれた我が子のあまりに かよわい姿に、気を乱す母親を見てまた不安になる若い母親も多い。 三つ子以上の多胎児になると、近年は誘発剤の使用による結果が 代表的で、子供を授かる段階で苦労が多かった母親には尚更である。 我が家で八人の出産をした通代である、当然三つ子も自然な 受胎であるがその成長も順調であった。
- 127 :賢治:04/05/28 09:27 ID:nMie2i4K
- 七月最初の週の月曜日に通代から連絡があった。
「来週の月曜日に手術が決定したから」 調度32週が経過しての帝王切開となり、三つ子である事を 思えばよく無事にここまでこれたという所だろう。 私には、子供が産まれる前にやらねばならない事があった。 戸籍上の手続きの確認である・・ 離婚後200日以内に出産された子供は遺伝子はどうあれ、戸籍上は 元夫婦の子供であるらしい。 しかし逆に婚姻関係にない男女間に産まれた子供の場合、私の籍に 実子として続柄を継続させる事は出来ない。 本来通代一人が親となれば父親の蘭はバツ印になり 私生児となってしまうが、私が実子として認知すればそこに私の 名前は記載される。 しかしそれは当然姓の違う父母であり、我が家の籍に向い入れる場合には 養子になってしまう。
- 128 :賢治:04/05/28 10:11 ID:nMie2i4K
- 私がこだわったのは、実子として我が家の籍に入れる事であり
その続柄を、我が家の子供達につなげる事であった。 私との血縁関係こそないが、同じ母親から産まれた兄妹たちを そうする事で、より強くその意識を持ってもらいたかったのだ。 しかしその為には、どうしても夫婦間で子供が産まれるという 状況が必要であり・・全く不本意ながら私はその決意をした。 子供の出生届を提出する前に、通代を我が森上籍に戻す事にしたのである。 翌週月曜日・・ 昼近くになり、帝王切開による出産が無事に終えたとの連絡があった。 三人とも日数なりに成長しており元気だという・・。 この一報を聞いた時、私はある妙な経験をしたのだ。 なぜか漠然と男の子であろうという心構えであったが、産まれて みたら三人とも女の子であった。 女の子だと聞いた、本当にその瞬間に頭の中に名前が・・・ それも三人分の名前が一度に浮かんだのである。
- 129 :賢治:04/05/28 10:34 ID:nMie2i4K
- これまで我が家の四男四女の名前にはすべて、娘には
通代の「代」を、息子には賢治の「治」を一文字入れて 漢字二文字で統一していたが・・ 一報を受けた時に浮かんだ名前もそれにならっていた。 何よりも瞬時に浮かんだとは思えない、そのセンスに内心 自画自賛し感謝の気持ちさえあった。 子供が産まれ、名前が決定した時にはいつもの事だが 「この子は我が家に生まれ・・ この名前で生きて行く運命にあった子なのだな」 と、しみじみ思うのだ。 名前は 五女・・空代(ひろよ) 六女・・海代(ひろよ) 七女・・陸代(ひろよ) とした。 折角滅多にない三つ子で生まれたのだから、一生三つ子で ある事を満喫して貰おうと思い、字を変え同じ名前にした。 自衛隊の如くであるが、それもまた弱々しくなくていい。
- 130 :賢治:04/05/28 10:56 ID:nMie2i4K
- 同じ名前の三つ子は将来、就学時に先生等にとっては不都合かも
しれないが家では普段、「そら」「うみ」「りく」で 呼べばいい。 そのあたりに対しての、本人の理解は成長とともに自然に 出来る範囲の事であろう。 名前も決定した、後はお役所での処理をして頂くだけである。 家族内での、同じ音の名前に関しては我が家は前例がある。 アトランタオリンピックの年に生まれた次女は、母親と 同じ「みちよ」なのだ。 柔道の田村選手が決勝で敗れた試合を見た私が、その無念を 忘れたくないと柔道にちなんだ名前を考え、「道代」としたのだ。 結果としては我が家の「みちよ」は また一人だけになったのだが・・・。
- 131 :賢治:04/05/28 11:17 ID:nMie2i4K
- 火曜日の午前に早速、市役所の戸籍係の窓口に向かい
予め、道代とその親の了承を得て作成した婚姻届を提出した。 出産には最後まで、同意しなかった道代の母親も入籍の件に 「私生児にはしたぁないで」 とこの時は感謝めいた言葉もあったが、後にこの人は これにも悪態をつけて来る事になる。 「これで道代とは夫婦になりましたね」 と職員に確認した後、更に三人の子供の出生届を提出した。 そして一つ々々の欄の確認作業を終え、無事に受理を 確認してから次のように職員に申し出た。 「それじゃあ、帰りますので離婚届を一枚下さい」
- 132 :賢治:04/05/28 13:32 ID:vOfTEyzK
- 三人の「ひろよ」は晴れて我が家の五女、六女、七女となった。
その為にわずか24時間余りとはいえ、道代を再度の入籍は どこまでも本意ではないがそこは、書類の手続き上 仕方がない事だと割り切るしかなかった。 更に三週間が過ぎ小学生組が夏休みに入ると、早速三つ子に会いに 岩手に向かわせた。 無論未熟で生を受けた三人はまだ退院してはいなかったが、道代は 住まいから病院に通っていたので宿もある。 曲がりなりにも母親がいるわけだし、食事も与えてくれるだろう。 三つ子の妹が産まれた、と聞いた時から楽しみにしていた我が家の 子供達からは直ぐに感激の声が届いた。 私は、駆け付けたい気持ちを押さえ仕事に向かうしかなく、夏期休暇 の日を待った。
- 133 :賢治:04/05/28 13:56 ID:vOfTEyzK
- 盛岡の駅に到着すると、直ぐタクシ−に乗り込み
目的地を告げた。 道代と子供達はこの日、私が盛岡に到着していた事を知らない・・ 「道代には明日子供達を迎えに行くと言ってある・・ 今日は久し振りの盛岡でゆっくりしよう」 との思いもあったが何よりも「ひろよ達」との対面と、その 後の余韻を誰にも邪魔されたくはなかった・・ じっくりと、これから育てて行く上での決意と実感を 味わいたかったのだ。 病院に着き父親であると名乗ると、看護婦さんが丁重に 面会室に案内してくれた、いよいよ一ヶ月も待った対面の時である。
- 134 :賢治:04/05/28 14:23 ID:vOfTEyzK
- 産まれた境遇がそうさせるのか、たまたまそうであるのか・・
はたまた私の遺伝子には含まれず、そうでないものにはあるものか・・ とにかく、手に抱いた三人の「ひろよ」はどの子も 力強い生命力に溢れていた。 今までの八人には感じた事のないものを感じた。 時間を忘れ、しばし見入った後病院を出た・・ 次に向かう先も決まっていた、道代が岩手に入った際に 色々と便宜をはかって頂いた学生時代の先輩に挨拶に 伺い、その後今夜の宿に向かうのだ。 学生時代から、何度も利用したその宿は駅前ビルの中にあった。 宿、といってもホテルなどではなく仮眠室のあるサウナだ。 当時から殊ある事にここで宿をとり、限界まで汗を搾り どれだけの思いを振り切ったものか・・・ だが今夜は違う、懐かしいこの地のこの建物の中で 明日からの生活を組み立てるのだ。
- 135 :賢治:04/05/28 14:43 ID:vOfTEyzK
- 朝はゆっくり起き出し、また一汗を流してから外に出た。
このビルの地下一階地上一階には、パチンコ店があり そこに立ち寄る事も盛岡に来た際の習慣になっていた。 その時間はほんの少しでも良かった・・学生時代と 同じ行動経路をとる事で、まるで自分自身がリセット されたような気持ちになるのだった。 昼に近くなり、道代に子供達を駅まで連れて来てくれる ように連絡をした。 「えー、今晩うちに泊まって行くんじゃないのぉ」 と、道代は不満気であったが当然その気はなかった。 早く子供達と新幹線に乗り込み、三つ子達との対面を 再度感激し合いたかった・・ 東北新幹線、東海道新幹線、東海道本線と乗り継ぎ 思い深き旅からまたこの街に帰って来た。
- 136 :賢治:04/05/28 15:08 ID:vOfTEyzK
- 九月になり、岩手の風はだいぶ冷たくなった頃・・
三人の子供達は無事に退院を果たした。 三人の乳飲み子を引き取るにあたり、静岡に戻って 直ぐにあらたな住まいを確保し、思い付く準備を一つ々々 しながらその日を待ち受けた。 それぞれ四人の兄も姉も、その気持ちは同じであった。 何日でも早い事を道代も望んでいるだろうと事を急いだ。 何しろ、一人の赤ん坊でも世話が出来なかった道代の ところに今、三人もが居るのだ。 やっと環境のうえでも気持ちの上でも準備が整い、道代に 「いつ頃に、静岡に連れて来れそうなんだ?」 と連絡を入れると道代は 「ねぇ、やっぱり私も一緒じゃいかん?」 冗談とはとれないその真剣な問い掛けに、私の 気持ちはドッと重くなった・・・
- 138 :賢治:04/05/29 18:35 ID:DUeHGY85
- 「私も一緒じゃなきゃあ、この子達は渡さない」
という道代の論理が、どれだけ手前勝手なものかは言うまでもない。 私がもう、三人の子供に対しての思い入れが出来ているのを 見越しての思惑なのだ。 道代はなかなか譲らずに攻防は二ヶ月続いた・・。 三人もの乳飲み子を道代が育てるなど、想像も出来ない事で あるしまた、育ててしまった場合には成長過程で心配な事が多すぎる。 男でも出来れば子育てなど、おざなりになるのが目に見えている。 一人でも二人でもいいから渡して欲しいと訴えたが、それも却下された。 遠からぬ将来道代が子育てを投げ出した時に、一人でも最初から 同じ顔をした姉妹がいると、適応してくれやすいと思ったのだが・・ 直ぐに根をあげると思えた道代に余裕があったのは、またしても 娘の機嫌とりに執着する道代の母親の存在であった。
- 139 :賢治:04/05/29 18:45 ID:DUeHGY85
- >137
すいません・・138の「道代」はすべて「通代」の間違いです。 しかし130の場合は特に間違いはないのではと思います。 母親→通代(みちよ) 次女→道代(みちよ) という設定なのです・・が、138は明らかな当方のミスです。 Windows95での書き込みなので見にくくて 気づきませんでしたと言い訳させて頂ます。 ・・・・申し訳ありません。
- 140 :賢治:04/05/29 23:25 ID:XO2/bAYd
- つきっきりで三つ子ばかりか、通代の世話をもこなす通代の母親は
娘の自立心も自覚も見事に奪った。 環境に依る影響がどの程度のものなのかは解らないが、特異な 環境で育ったこの人の、娘に対する愛情は湾曲していた。 自己犠牲ともとれる愛情は決して自己満足でも、無償でもなく 常に自分の期待する反応を娘に求めるものであった・・が、 つくしたからといって、母親に感謝の気持ちを持つどころか つけ上がるばかりの娘であるから、そういう意味では 無償の愛なのかもしれない。 我々の披露宴で、新婦側の友人代表の挨拶を通代が惚れていた男に 頼んだこの母親は、私に向かって 「通代はこの男が好きで好きでなぁ、でも女がおってんなぁこの男・・ 披露宴で惚れた男に祝辞をなんて、女冥利につきるわぁ」 と嬉しそうだった。
- 141 :賢治:04/05/30 01:14 ID:tkhvtesb
- 通代にとって素晴らしい披露宴に、と思う母心は真っ当だが
その後の私との結婚生活を幸せにと思えば、しない選択である。 あまりに突拍子ない事で、私は憤慨どころかあきれるばかりであった。 どの程度の事まで気にしないべきなのか、どこから憤慨すべきなのか この母娘といるとまるで狂ってしまうのだ。 その母親が、今度は通代の復縁願望の後押しを始めるまで そう時間は掛からなかった。 「通代があんたと暮らしたい言うてるんやからエエやないの」 と脅すように迫るかと思えば・・ 「家も仕事場も建てたる!それでどうや」 と、この人らしい飴戦術も持ち出す始末・・・ 娘に対して手柄をたてたくて仕様がないその姿はあわれにさえ思えた。
- 142 :賢治:04/05/30 07:18 ID:tlTexTGk
- 「愛代がな、道端でお地蔵さん見つけたらなパァ〜っと
走って行って手を合わすねん」 と通代の母親が私に言う。 「ほんでな、何お願いしたの聞いたら何て言った思う・・? 『お父ちゃんとお母ちゃんが早く一緒に暮らせますように』言うんやで」 明らさまな作り話に唖然とするが 「わたしゃ、涙出てなぁ・・」 と喫茶店の窓から遠くを見つめ、細かい演技にも力が入る。 どんどん白けながら私は、この母娘が今まで私にどんな態度で 接してきたのかこの際、言ってみようかなとも思うがとどまる。 子供達にとっては母親であり祖母なのだ・・ましてや私と 事実上は他人になっているのだ、どうせ疎遠になっていく関係なら 事を荒立てたてずに済めばそれでいい。 しかし通代の母親の言葉には遠慮も何もなかった・・ 「確認だけするけどな、あの三つ子は賢治さんの子やろ?」
- 143 :賢治:04/05/30 11:45 ID:Jf26j21f
- 「あんた、通代と別れてからもしょっちゅうあの娘のところへ
出入りしてたんちゃうの・・で、出来た子やないの?」 私が初めて通代の部屋に上がったのはもう、子供が出来た 後であったがそれはそれで 「なんや、じゃああんた自分の子でもない子を籍にいれたんやなぁ! じゃあそれは私があんたに、礼を言わにゃあいかんのやなぁ」 と言われる始末・・ 「とにかくもう通代と暮らすつもりはありません」 「あんた今、その口でハッキリ言うたね! それでいいんやね、ほなそうするでぇ!」 立ち上がって私を指さす通代の母親に、周囲の客も視線を 向けるがお構いなしだ。 この無意味で不愉快な時間が、早く終わってくれる事だけを 願いながら私は益々白けた気分になるのだった。
- 144 :賢治:04/05/30 12:21 ID:Jf26j21f
- 三人の子供達に気は掛かるものの、我が家は引っ越しに
向けて慌ただしくもなっていた。 当初の動転や不安から比べれば、不思議なほど慣れて しまってはいるが、この街にはもう長く住むわけにはいかない。 離婚後の通代の素行は知れ渡るところとなり、いつ 我が家の子供達の耳に入るか解らないのだ。 大抵の事は子供達にも真実を話す方針ではあるが、通代の 場合には耳に入れたくない話が多い。 私は密かに故郷岩手に戻る決意を固め、それに掛かる費用の 捻出に思案した・・岩手で仕事を始める資本も必要だ。 先ず借家を引き払い、子供達は通代の実家に 一時預ける事にした。 通代の家でも、子供達の環境を訴えて渋々ではあるが了承し 翌年三月までの半年間、面倒をみてくれる事になった。 平成15年七月、春に入学したばかりの次女は初めての 転校になり彼女はこの後、年内に更に二度転校する事になる。
- 145 :賢治:04/05/31 09:29 ID:ev3pNvrj
- 仕事場に寝泊まりしだしてまだ間もない七月の半ば、通代の
実家からの電話が鳴った・・・ 「やっぱり面倒見きれんで、子供達連れて戻って」 というものだった。 約束の半年間、何事もなく預かってはくれまいと覚悟はしていたが それにしても早すぎるし何よりもう、私には住まいもないのだ。 十日ほど先の夏休みまでは、とりあえず置いて貰ったが 夏休み初日からは家族九人が仕事場に住む事になった。 炊飯器でご飯は炊けるがガスが使えず、調理はレンジのみ・・ 洗濯はもちろん手でした後に河原まで干しに行った。 朝早めに起こして、仕事が始まると子供達は公園や 河原で時間をつぶし昼食に戻りまた、夕方まで外に出した。 子供を通代の実家に連れて行った時、私は玄関先で通代の母親に 「私らこの年でこれだけの子供の面倒見るの、どんだけ 大変や思っとんの!必ず迎えに来ぃやぁ!」 と、「まったく・・」をはさんで三度も念を押された。
- 146 :賢治:04/05/31 10:31 ID:ev3pNvrj
- 二年余りを父子家庭として過ごし、例え半年の間を通代の
実家に預けたにしろ、その後もまた父子家庭の生活は続くのだ。 事の発端が通代にある事も踏まえると、謙虚に引き受けて 貰ってもいいところなのではなかろうか。 夏休み後、子供達の通学の事もあり事態の解決は急を要した。 あらたに住まいを確保するにしても時間が必要であり、気は 重かったがもう一度通代の実家にと電話をとった。 「ああ賢治さんか、あのな三重の尾鷲にな・・ もう住まいも仕事場も用意したからな、そっちで暮らしてんか」 頭から怒鳴られる事を覚悟での連絡あったが、まるで 私からの連絡を待ち受けたようにそう告げられた。
- 147 :賢治:04/06/01 13:41 ID:LBAt0dJM
- 通代の親は最初から、子供を半年間面倒を見てくれる
つもりなどなかった・・ 経済的に私が息詰まるタイミングで、新天地の確保という カードを、それも子供を預ける相談をした段階から用意していたのだ。 余力があれば子供を預けたりしない事など承知の上だ。 通代の親は口には出さないまでも無論、援助の向こうには娘との 復縁を含んでいる。 この期に及んでも、私を追いつめようとするこの連中といつまで こうして関わりあわなければならないのか・・ 私の中で押さえ続けて来た自制心のようなものが、ポロポロと 崩れはじめ正面から思考する力が無くなって来るのが解った。 「岩手に帰ろう・・」 そう先ず動かざる結論として据える事で辛うじて、正気が 保てたが精神的な限界は突然にやってきた。
- 148 :賢治:04/06/01 14:34 ID:LBAt0dJM
- そんな中、幸いなアクシデントが起きた。
通代の母親の策略を拒否した事で、岩手に居た通代が 我が家は静岡での生活続行を決意したと勝手に勘違いしたのだ。 それでは岩手にいてもと通代は、三つ子を連れての引っ越し先に 静岡と県境の愛知県の街を選んだ。 これによって私の帰郷計画は加速、その計画は誰に話す事無く 子供達にさえ知らせずに準備を急いだ。 性分なのか基本的に趣味は多いが浅く、の私だがひとつだけ 変わらず熱を入れていたのがライタ−の収集である。 USA製のこのオイルライタ−は、粋なものあり ふざけたものあり、年代物は勿論実に多彩で飽きる事がない。 どれだけ苦心して入手したかを思えば、何があっても手放す 気にはならず封印までしたコレクションであるが、今回の 資金捻出の為にはそれも叶わなかった。
- 149 :賢治:04/06/01 18:03 ID:LBAt0dJM
- 平成16年春、私達親子は岩手県に住んでいる。
人口四千人にも満たないこの村は私の産まれ育った村でもある。 三十代で人生を振り返るのは、諸先輩に失礼だがここまでは 退屈のないなかなか満喫出来た人生と言えよう・・。 平凡には生きたくないと言う後輩諸君、平凡になど生きられる ものではない・・・ 望む望まないに関わらず人の数だけ人生ドラマは展開し、そこに 語るべき事のない人生などないのだ。 私の人生は、通代と出会った事によって起きた波乱が多く しかし彼女との出会いの中で得たものも多かった。 八人の子供と、今のところ戸籍上だけの子供である三つ子もそうである。 今、曲がりなりにも親として暮らしているのも通代との 出会いがあったからだ。
- 150 :賢治:04/06/02 14:20 ID:2+CydTq5
- 元来、自己中心的な私はきっと親としても夫としても横暴で
あろうと、独身時代から危惧したものだがそれを はるかに上回る伴侶を得た事で、自分はそうならずに済んだ。 これも通代との出会いによる、思い掛けない副産物である。 同じ桜でも満開の下、酔い心地に褒め称えられながら散って ゆく桜もあれば・・ この標高の高い村の桜のように、駿河の桜が散って尚日を置いて 咲いても、雪に舞われ誰一人見上げない桜もある。 自分の人生を誰の人生と比べようもないが、過ぎた時間に想いを 馳せても仕様がないのは皆、同じなのだ。 過去も現在も確かに私の人生ではあるが、過去を反芻してまで つらがるつもりはない。 私は親として恵まれた我が人生に感謝している・・過ぎ去った 時間に対して私は既に傍観者だ。 そう・・まるでこの、桜を見上げるタンポポのように・・。 < 完 >
- 151 :賢治:04/06/02 15:28 ID:2+CydTq5
- 最後まで読んで頂いた方がおりましたなら、お礼を
申し上げるよりもむしろ、申し訳がないような気も致します。 途中でどなたかが指摘されておりましたが、確かにこれは 自意識過剰以外の何ものでもありませんし、自己満足の為に 書いてしまいました。 そんな中でも、5&13氏に何度も書き込みを頂いたり 38、44,52,62,68、90各氏のレスも 有り難いものでした。 文芸創作板がある事を教えてくださったレスもありました。 途中で各氏のレスに対してお答えしなかった非礼を あらためてお詫び致します。 賢治
- 154 :賢治:04/06/02 17:36 ID:DR31DrxZ
- もっと書いてもよかったんですかね・・
離婚なんて話は昨今、身近にありふれていて さほど興味のわく話題ではありませんよね。 でも、夫婦にもなった男女が別れるって事は 当事者にとってはそれなりにドラマが 存在するわけですよ。 今回、そこだけを書いてみたかったのです。 アナバナナ氏には期待して頂いたのに申し訳ありません。 賢治
- 155 :賢治:04/06/02 17:49 ID:DR31DrxZ
- 5&13氏、再度の御登場ありがとうございます。
現実にはですね、各場面そんなに感傷的には ならず、端から見れば納得しにくい程あっさりと 通り過ぎた事が殆どです。 それは子供との日常が側にあり、どうしても 私の態度がそのまま影響するからです。 もし子供がいない夫婦であったなら、前向きな 考えが出来たか本当に解りません、子供の存在とは有り難いものです。 ただ私の気持ちのどこかに、各場面において 内面的な部分も、誰かに理解して欲しかった・・その思いがあり 勝手ながらここで解消させて頂きました。 御批判の声ごもっともの中、153のコメントは 胸に響きます。 賢治
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